そば紛と小麦粉の栄養分から見た違い

 そば粉も小麦粉も栄養成分の主体はでんぷんですが、たんぱく質など、その他の栄養素の成分組成では大きな違いが見られます。
 そば粉も小麦粉も穀物を製粉したもですが、製粉の目的は根本的に異なっています。
そば粉の製粉のポイントは、でんぷんを中心成分とする胚乳部に、胚芽や甘皮部分、場合によっては殻の一部分までを、どれくらいの割合で配合するかということです。
その配合比率によってそば粉の風味や色が決まり、挽きぐるみ、一番粉、二番粉、三番粉と分類されます。
これに対して、小麦粉の製粉の狙いは、胚乳部だけをいかに純粋に粉にするかです。

 この製粉目的の違いを栄養面から見れば、そば粉の製粉は小麦粉の場合に比べて、栄養素の豊富な部分(胚芽や種皮部分)を製粉工程で失うことが少ない、ということになります。
もちろん、ソバと小麦は別種の穀物であり、製粉する以前の玄穀(ソバの場合は「玄ソバ」)の段階での成分組成に違いがあることはいうまでもありませんが、製粉目的の違いがさらに、両者の栄養成分の違いを増幅しているといえるでしょう。

 たとえば、小麦の玄穀には穀物としては比較的多くのビタミンが含まれています。
玄穀同士の比較では玄ソバとほぼ変わりませんが、その大部分は皮や胚芽の部分に偏在しており、胚乳部の中心に向かうほど少なくなります。
とくに小麦胚芽は栄養価が高く、ビタミンEなどの栄養剤が製造されているほどですが、それらの栄養素は胚乳の粉である小麦粉には含まれていません。

 胚乳の中心部にはでんぷんが多く含まれ、粒の周辺部に近づくにつれて他の栄養成分が多くなるのは小麦ばかりでなく、ソバや米など穀類全般に共通した性質です。
また、ひと口に小麦粉といってもいくつかの種類があり、それぞれ栄養成分の組成も違います。
一般に小麦粉は、

    @種類   強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム・セモリナ
    A等級   (特等粉)、一等粉、二等粉、三等粉、末粉

という二つの分類の組み合わせで区別されています。
つまり、強力二等粉とか薄力一等粉、といった呼び方になります。

 強力粉とか薄力粉などの種類別分類は、含まれているたんぱく質の量によって決まります。
その量はおおむね、強力粉が12.5〜14%、準強力粉が10〜12.5%、中力粉が8〜10%、薄力粉が6〜8%です。
袋などに「湿麩」で表示されている場合は、その量はたんぱく量をほぼ3倍したものと考えてよいでしょう。

 一方、等級別分類は、カリウムやリン、カルシウムなどの灰分(ミネラル)の含有量によって決まります。
これらミネラルは、小麦粒の皮および粒の周辺部に集中し、胚乳部の中心にいくほど少ないです。
灰分が多いということは、胚乳の周辺部まで挽き込んだことになりますから、でんぷんの純度の高い中心部を粉にした製品に比べてグレードが劣る、という意味です。

 小麦粉の性質は、原料小麦の品種や産地、作柄などによって左右されるため、たんぱく質と灰分の量の違いだけでは判断できません。
また、作ろうとするうどんによっても条件が変わってくるため一概にはいえませんが、一般に、うどん作りに通した小麦粉は、たんぱく質含有量が8〜10%の範囲内で、グルテンの性質があまり硬すぎず、適度な柔らかさと切れにくい伸展性を持つもの、とされています。
先の分類によれば、中力粉の一〜二等粉が向いているということになります。

 そば粉のたんぱく質含有量は、一番粉(内層粉)が6%、二番粉(中層粉)が10.2%、三番粉(外層粉)は15%です。
この数字は、小麦粉の種類別分類(強力粉・準強力粉、中力粉、薄力粉)とほぼ対応していますが、たんぱく質の栄養価には大きな違いがあります。
たんぱく質の栄養価は、必須アミノ酸の種類と量が、人体の要求するアミノ酸組成に近いかどうかで評価されます。
人間の体は、このアミノ酸バランスがとれていないと、食品中のたんぱく質を効率よく吸収・活用することができません。

 そば粉のたんぱく質のアミノ酸組成の最大の特徴は、穀類のたんぱく質では不足しがちな必須アミノ酸であるリジンの含有量が多いことです。
「日本食品アミノ酸組成表」によれば、そば粉(挽きぐるみ)のリジン含量は100g当たり700mgです。
それに対して、小麦粉(中力一等粉)は220mg、強力一等粉でも270mgしかありません。
リジンが少ないのは、小麦や米などイネ科の穀物に共通した特徴ですが、タデ科植物に属するソバには豊富に含まれています。

 一般に、たんぱく質の栄養価は、アミノ酸スコアで表わされますが、小麦粉の中でも最も高い薄力一等粉で44(中力一等粉は41)、白米が65に対して、そば粉は二番粉が90、挽きぐるみでは92にもなります。
そば粉のたんぱく質は、大豆の86をも上回る優れたアミノ酸バランスを持っています。
しかも、リジンの含有量は、そば粉の品質にほとんど影響されません。

 ただ、そば粉のたんぱく質は良質のものですが、完全なものではありません。
一方、小麦粉のたんぱく質は、全体としての評価では劣るものの、そば粉には少ないアミノ酸も含んでいます。
そのため、つなぎに小麦粉を加える(2割以内)ことで、双方のアミノ酸組成のバランスが補完され、たんぱく質供給源としての価値が向上します。
最近は、つなざを加えず、そば粉だけで打つ生粉打ちそばが人気のようですが、栄養面から見れば、昔からの二八そばがもっと評価されてもよいことになります。

 ところで、そば粉と小麦粉では、たんぱく質の栄養価だけでなく性質も違います。
 小麦粉は水を加えてこねると、粘りと弾力性のある塊にまとまります。
この生地(ドウ)を多量の水にさらしてでんぷん粒やその他の水に溶ける成分を洗い流すと、まるで餅のように粘弾性の強い塊状のものが残ります。
これがグルテンで、これを食用に加工したものが生麩です。

 一方、そば粉には小麦粉のようなグルテンはありません。
そば粉のたんぱく質は水に溶けると粘りを生じるので、その力だけでそば粉をつなぐこともできます。
ただ、グルテンの綱目構造のような強い麺帯形成力にはならないので、通常は小麦粉を適宜に混ぜて打ちます。

 ミネラルについては、灰分の含有量で等級別分類がなされていることからも分かるように、小麦粉にはほとんど含まれていません。
一等粉はすべて、そば粉(二番粉)の五分の一程度です。
もっとも、一般に小麦粉や米などの穀類にはミネラルはあまり含まれておらず、ミネラルが豊富なそば粉は、穀物中の例外といえます。
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